聖夜は明日だけど…
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


       



久蔵の家へは いつ向かっても良いからと打ち合わせた。
朝から三人で作ったケーキは、
メインのベリームースタルトと、
久蔵がザッハトルテ、平八がティラミスで。
二人と違ってまだまだ初心者な七郎次は、
それが基本的なものだったからなのと それから、
勘兵衛が一番好きなようだったと覚えていたので、
ふっかふかのスポンジを生クリームとイチゴで飾った、
スタンダードなケーキを手掛けることにし。

 “凄いなぁ、久蔵殿。”

かつて焼いたモンブランやロールケーキのスポンジ生地より、
数段上のしっとり感と、
ふわふわさ加減が出るようにという工夫を知っており。

 “○○○○○を入れるなんてねぇ。”

他言無用と口止めされたので此処では言えないが、と。
柔らかそうな緋色の口許、
曲げた人差し指の中途でつんと押さえたのは無意識の所作だったが。
人待ち顔で待ち合い用のロビーに佇む金髪の美少女は、
さっきからその周辺を行き交う人々の視線や注目を浴びたおしており。
やや俯いてのそんな可憐な仕草を見せたもんだから、

 「おいおい、誰だよあれ。」
 「どこの部署の関係者だ?」
 「刑事部長のお嬢さんとか?」
 「いやいやいや、それはない。」
 「そうそう。」
 「確か もうOLだって言ってたし。」
 「第一、髪の色がな。」
 「いや、部長の髪の毛知ってる古参って、そうはいないんじゃあ。」


   ………大失敬。(苦笑)


もののふだった頃に身についたもの、
全部が全部を思い出した訳ではないけれど。
ましてや、能力的なものは、感覚だけしか思い出せてないものもあって。
例えば、先日もお友達の前でこぼしちゃった、
お料理だの気の利かせようだのという手際は、
なかなかすんなりと指先や口先にまでは戻って来てはなく。
ああ こうすれば良かったんだ、こう言えば良かったんだと
少し後になって“判る”ところが却って口惜しかったりするのだけれど。

 「平和だねぇ、警視庁。」
 「…っ。」

刑事さんや職員さんたちのこそこそっとした会話は、
一応は気を遣ってか、こちらへ聞こえないようにという小声のそれだったが、
それでも視線や何やで見当はつくし。
耳の澄ましようとか自分の血脈の音を下げる法とかを応用し、
ついつい拾ってしまったそれらの中身が、あんまり可笑しくて。
辛抱たまらず吹き出しそうになった丁度その間合いへ重なって、
まるで…自分が今思っていたそのまんまを耳元へ囁かれた七郎次お嬢様。
別段、盗み聞きをしていたワケでなし、
そっちの方向でどぎまぎしたんじゃない。
あまりに間が良かったのへこそ、
胸が躍り上がったほどにギクッとし、
やだ、アタシったら口に出しちゃったのかしら?との困惑から、
左右を見回しかけたところが、

 「やあ、おシチちゃん♪」
 「あ……良親様?」

かつての彼よりも上背があるように見えるのは、
自分の側こそがあの当時より年若なのと、
女子高生という“異性”に転生したからか。
頭を仰のけなければ目線が合わぬ身長差なのへ、
向こうも微笑ましいなとでも思ったか、
柔らかな笑みをますますのこと濃くした彼であり。

 「どうしたんですか? こんなところで。」
 「そういう おシチちゃんこそ。」

なんでまた?と、
はぐらかすようにこっちへ聞き返す小意地の悪さよ。
とはいえ、

 「アタシは勘兵衛様を待ってるだけです。」

さっき征樹様へメールしたら、勘兵衛様もいるからって。
なので此処で待っててって言われて…と。
疚しいことでなし、すらすらっと応じてから、

 「良親様こそ、警視庁なんかへ何の御用ですか?」
 「うん。実はネ? 落とし物を拾ったんだよ。」
 「嘘をつけ。」

ずんと幼いお子様相手のような物言いをする彼だったのへ、
七郎次とは反対側からの声がかぶさって。
そのまま後ろ襟でも引かれたか、
先だってもなかなかの活躍をした彼ほどの人物が
“おおっと”とたたらを踏みかけ慌てつつ、七郎次の視野から遠ざかる。
今度は良親が不意を衝かれの、
思うところを推されるという読心術(?)を使われたらしく。

 「ありゃりゃあ。」

君だけちょっと来なさいと、
征樹様こと佐伯刑事に引っ張っていかれるのを見送れば、
それをやや振り返るようにして見送る誰かさんの姿が、
丁度入れ替わりのように白百合さんの視野へと収まる。
暖房が効いている館内だからか、
意外にもスーツのボトムへシャツにセーターをかさねただけという、
勤務先にいるというのに随分と砕けた姿の勘兵衛で。
濃色の上着なしという姿へ、
背中まである深色の長髪が、妙に印象的に映えて見え。

 「勘兵衛様?////////」
 「おお、七郎次か。済まぬな、待ったか?」

このような殺風景なところで待っていて、
さぞかし落ち着けなんだであろうにと。
すたすたと歩み寄りつつ、目許を細めて微笑ってくださるものだから。
それがたとえ周囲に人の目があっての愛想笑いであれ、

 「〜〜〜〜。////////」

今日の今まで 何日だか逢えないでいたその寂しさが、
今の今 あっと言う間に埋まったと。
そうと思えたほどのときめきが、甘酸っぱくも白百合さんのお胸を満たす。

 「???」

如何したかと問うように、
ほのかに双眸を見張って見せるちょっとした表情の変化といい。
男臭くて彫の深い精悍なお顔の中、
引き締まった口許が殊更な笑みを形どり。
寛容と少しばかりの茶気とを程よく混ぜての温めた、
そんなじんわりと優しい微笑みを。
他の誰へでもなく、
今 向かい合っている自分へだけ向けられていることとか。
ああ腰に当てておいでなだけなのに、大きな手が何て頼もしいことか。
ただの無地の白ワイシャツが、こんなにカッコよく決まって着こなせるなんて、
肩やお背(せな)がバランスよくかっちりしているからなのでしょうね。
勘兵衛様、モデルデビューなさったら良いのに…。
ああでもそんなしたら、全国に山ほどのファンが出来ちゃうじゃない。
シチの馬鹿馬鹿、そんなしたら今より落ち着けなくなるじゃない…と。

 「……もしかして何かしらの色々を、一人考えておるようだが。」
 「あっ、いえ。あの・そのっ。////////」

大好きなご本人を前にして、
なのにそのご当人を差し置いての空想へ走るなんて。
そんな舞い上がりようがありますか…と、そこはさすがに我に返れた七郎次。
Aラインが綺麗なグレーのシンプルなコートは、
ボアレースの角張った襟つきで。
お嬢様の白い頬や、静電気に膨らまぬようにと引っつめにした金色の髪が、
より可憐に清楚に映えること映えること。
向かい合う壮年警部補が、
歳に見合わぬ屈強精悍、何とも良い体格をなさっているものだから。
尚のこと、慎み深くもか弱き令嬢に見えて。

 「実は、特殊警棒振りかざし、
  何人もの狼藉者やら男衆を薙ぎ払って来た豪傑なんだってね。」

 「表向きには事件として成立してないけどな。」

おシチだけじゃあない、
お前さんがガードしている三木さんチのご令嬢もだぞと。
長い長いお廊下の端から、
他の人々からもさりげない注視をそそがれておいでの二人を見やりつつ、
佐伯刑事が元・相棒こと、双璧の片割れを肘でつつけば。

 「あ〜、そういやそうだってねぇ。」

これでも華やかな業界の人間ですからということか、
二重襟が重なったデザインシャツに、
脇と背中と、絶妙な位置へタックがとられたジャケットという、
こそりと小じゃれた装いの良親氏。
俺が傍づきになったのって最近の話だしィと誤魔化すものの、

 “まあね、あの紅胡蝶さんでは、
  身の危険へついつい体が動いちまうのもしょうがない。”

前世でも因縁のあった剣豪の生まれ変わりだもんよと、
征樹殿は恐らく知らぬだろうそれまでも、
既に数えてあった武勇伝の数々を、
苦笑混じりに思い出していたりして。

 「…で? お前は一体何しに来た。」
 「お言葉だねぇ。今 関わってる某商社への侵入事件。
  警備システムへの手引きをしたらしい、
  ハッカー少年の情報があるんだのに。」

どうせ何かしら取引条件が有っての交渉なんだろにと、
切れ長の目許をやや眇め、しょっぱそうなお顔をした佐伯さんだが。
それでも…せっかく彼もまた転生していると判ったのに、
何をしているものなやら、
怪しい跳梁の気配だけしか判らなかった頃よりはマシかと。
安堵なのか諦念なのか、小さく吐息をついて苦笑を浮かべ、


  「………で、おシチちゃんは何持って来たと思うね。」
  「そりゃあやっぱりクリスマスプレゼントだろうさ。」
  「だろうよな。」
  「箱の大きさから言って、きっと手作りのケーキだな。」
  「対する勘兵衛様は?」
  「…………用意はないと思うが。」


   ………………………………………………………。


  「ちっ、しょうがないな、今から見繕って来てやるか。」
  「馬鹿 お前、
   そんなして渡したものへの話が合わなんだらどーすんだ。」
  「? 何だそりゃ。」
  「だから。
   どうしてこれを選んだのかとか、
   今時の流行、結構御存知なんですねとか。」
  「あ…………。」


いつまでもどこまでも周囲をやきもきさせまくりの、
困った“年の差”カップルさんでして。
こんな人たちへも、
聖なる幸いが降りそそいでくれますように……vv





   〜Fine〜 11.12.24.〜12.25.


  *皆様、クリスマス寒波の中、いかがお過ごしでしょうか。
   せっかくケーキを焼こうというお話で盛り上がったので、
   顛末まで書いてみたくなったんですが。
   書いても書いても、なんかずるずると長くなるなるで。
   ……昨年の聖バレンタインデー当日ふたたび。(う〜ん)
   あれもこれもと欲張ってしまうのがいかんのでしょうね。
   反省、反省。(…軽いぞ、おい)

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